荒木経惟 『淫秋』『淫春』

Nobuyoshi ARAKI IMSHUN IMSHU

モノクロームの写真に「ちょっとさみしいから、色を入れたくなって」絵具でペイントする。荒木は言う。「モノクロームは死、カラーは生」。白と黒の世界に色が加えられることで、画面に動感がもたらされ、ぐっとなまなましくなる。二次元の写真に、時間と情感のゆらぎが奥行きをあたえている。常に死をみすえながら、一瞬一瞬を花火のように輝かせる作家のいさぎよさを思う。未練と山っ気のとぐろまく、どろどろとなさけない自分まで見えてくる。荒木の中国で刊行された写真集について、「(荒木さんの写真を)見たくない、切なすぎるから。でもどうしても見ずにいられない」というある若者のSNSの書き込みがよぎる。

ペインティングフォトという手法は、常に生と死をとなりあわせに感覚しつづける荒木独自の手法といえた。

『淫秋』、『淫春』は、写真に書が揮われている。『淫秋』ではモノクローム写真に般若心経が、『淫春』ではカラー写真にユニークな語彙が、花や人形で構成される「楽園」の醸成する物語と融和する。写真には和紙が使われている。

荒木の書は、すでに北京、上海、東京などでの文字のみによる個展を通して、何度も紹介されてきた。写真集のタイトルとして自身の書き文字が使われることが多いので、ファンにはその筆致はなじみ深いかもしれない。写真に書という所作もまた、荒木ならではのものといえよう。

「才能を使いきるまで死ねない」という言葉を地で行く毎回の斬新な試みが、荒木の個展の鮮度の高さの源泉となっている。

 

『淫秋』カタログ 刊行年 2016・判型 A4変型・24ページ・sold out

『淫春』カタログ 刊行年 2017・判型 A4変型・24ページ・価格 1,500円(在庫僅少)