荒木経惟 淫春 IMSHUN

2017.3.3 - 6.6

2017.3.3 - 6.6

夏(淫夏)、冬(淫冬)、秋(淫秋)と題された3つの展覧会の完結編として、
春草萌えいずるこの時節、四季を一巡して「荒木経惟 淫春」展がスタートいたします。

淫秋展の、モノクローム写真を和紙にプリントし、般若心経を墨筆でしたためた作品とは対照的に
淫春展では、カラーフィルムで撮影された作品が、色鮮やかにファインダーの中の楽園を描き出し、
闊達自在な言葉の書が躍る、華やかな作品群をご紹介いたします。

「土日写真」と称して、荒木氏の手指でアレンジされ撮影された、
短い命に時を呑み朽ちていく切り花と、
ときにあどけなく(すとんとたたずみ)、ときにしどけなく(紅絵の具を鮮血のようにしたたらせて)
花々と絡む、様々な出自の人形やフィギュアたちのつくりだす「花遊園」。
瑞夢と悪夢の交錯する魅惑のフィールドは、作家の書欲をくすぐり、
ユーモラスで奇々怪々な言葉の数々が、独特の文字に託されて、美事に写真と融和します。

荒木氏の写真には、常に対極が織り込まれておりますが、
この園にもまた、生と死、幸と不幸が去来します。
「般若心経惟」の雅号で、死の淵から生を見据えた作品群を陰とすれば、
今回の「淫春」展の作品から散光する、死の存在によって輪郭が明らかにされて
より輝きを増す生の感覚は、陽にたとえられるかもしれません。

来たる5月に喜寿を迎えんとする荒木氏は、たぎる創作への欲望を解き放ち、
すべてのシャッター音から作品がもれなく続々と生み出されています。
事物は時間とともに絶えなく微動し続け
その微動を写しとることが写真行為ではないかと思うようになった、
と語る荒木氏が体現する写真世界では、過去・今・未来が共振してゆらめき、
どこへ向かうとも知れない懐かしさが、風景を情景に変えてしまいます。
「実は俺、ノスタルジーっていうの、嫌いじゃないんだよね」

二度とは同じ道を歩まない写真家の才能力を、最大限に発露する作品群は、
めくるめくエネルギーをあふれさせ、慈愛と活力に満たされて
太陽のように見る者を照らします。

皆様のご来場を、心より楽しみに、お待ちいたしております。