野村佐紀子  映し世

2015.4.9 - 5.11

2015.4.9 - 5.11

野村佐紀子は、20年に及ぶキャリアの中で、様々な写真メディアを試みています。
代表的なシリーズとして知られるのは、やはり、漆黒の闇のなかで仄かな光を浴びて浮かび上がるモノクローム作品でしょう。
[「黒闇」(2008)「nude/a room/flowers」(2012)など]
さらに、超小型カメラ(通称スパイカメラ)で撮影したカラー作品集[「夜間飛行」(2008)]
デジタルカメラによる近作[「hotel pegasus」(2013)「sex/snow」(2014)「flower」(2015)]などを
つぎつぎと発表しています。

「UTSUSHIYO 映し世」は、4×5、スペクトラなど多様なフォーマットのインスタントフィルム作品で構成される展覧会です。
野村佐紀子が写真家としての活動をスタートした90年代初め、インスタントフィルムは、
コマーシャルの世界で本番撮影のためのイメージ確認に多用されていました。
(現在は、ご存知のように、ロケ現場に持ち込まれたPCの液晶画面がその役割を果たしています)。
その頃から彼女は、インスタントフィルムカメラを自在に操り、眼の前の光景に感覚が反応した瞬間を無作為に撮り続けてきました。
展示されるインスタントフィルムは、作品発表を意識せず、気持ちのおもむくままに撮りためられてきたものです。

本展では、過去から現在までに、野村が撮影したかぞえきれないほどのインスタントフィルム作品の集積から、抽出された約120点です。

写真家の美意識と思想と感情が注ぎ込まれた瞬間=moments=に
本能のファインダーが現実を囲い込む。
そこに、インスタントフィルム特有の化学反応が、
予期せぬ変容をもたらして、よりアブストラクトな世界へと
イメージを連れていく。
ケミカルと生理、偶然と感性が共振して生み出す心象風景。
寓意と無意識の連鎖。

その時間その場所に確実に存在した現実が、増殖された光の中で輪郭を浮かびあがらせているにもかかわらず
インスタントフィルムの画角の中に広がるのは、夢でしか出会えないような非現実的な世界。
たっぷりと練り込まれている、濃密な時間のエッセンスは、遠くに近くに、ただ揺らぐだけ。

本展で提示されるのは、写真家が写真家であり続けるあいだ、現実と感性が交差して、たゆまなく紡がれる協奏曲の断片かもしれません。
大小のかけらは、ご覧になる方のメロディに組み込まれ、新たな曲調を紡ぎだすことになるでしょう。

 

野村佐紀子 アーティストトーク

4月25日の15:00より、野村さんによるアーティストトークを行います。作品にあふれる情感の背景は、豊かな感性と資質に加え、日々技巧を探求しつづける努力に裏付けられています。

写真家・野村佐紀子は、どのようにして、自らを研磨しつづけているのか。写真への尽きない情熱を支えるものは?

 

【野村佐紀子 Sakiko Nomura 】
1967年山口県生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科卒業。91年より荒木経惟に師事。
93年より東京中心にヨーロッパ、アジアなどでも精力的に展覧会をおこなう。
主な写真集に『裸ノ時間(平凡社)』『愛ノ時間(BPM)』『黒猫(t.i.g)』『tsukuyomi(match&company)』
『夜間飛行(リトルモア)』『黒闇(akio nagasawa publishing)』『nude/a room/flowers(match&company)』
『hotel pegasus』『sex/snow』『TAMANO』『flower』(リブロアルテ)など。