荒木経惟 「梅ヶ丘心中」

Nobuyoshi ARAKI Umegaoka Lovers' Suicide

2021年10月10日〜12月12日

’82年の暮れからおよそ30年間にわたり、荒木経惟の住処であった世田谷区豪徳寺のマンション、ウィンザーハイム(荒木曰く“ウィンザースラム”)の広いバルコニーは、荒木の“写場”であった。’90年に陽子を喪ってからは、妻・陽子との“こと”に満たされたバルコニーから「空ばかり撮っていた」。その後さらに撮り続けていくことになる、花のクローズアップや日記のように紡がれていく日々の写真は、91年の名著『空景/近景』を生み出している。バルコニーには、旅の土産物や祭りの景品などとして手に入れた怪獣のフィギュアなどが、妻との思い出のテーブルなどとともに、雨晒しになっていた。

建物の老朽化にともない、小田急線の隣駅である梅ヶ丘に移転してからも、バルコニーでの撮影は続いた。およそ同時期の2010年代の初め頃より、一週間に一度花屋が届けてくる花々を、窓から射し込むやわらかい自然光のもと、アンティークドールや日本人形、恐竜、キャラクターや指人形などとともに“ファインダーの中の楽園”に収めた『堕楽園』に始まるシリーズ、「パラダイス」が本格化していく。

本展「梅ヶ丘心中」は、バルコニーに横たわる二体の男女の人形が風化するさまを捉えた7枚のモノクローム作品が、空景(青空にたわむれる雲、夜の帳の隙間からもれる太陽の赤。広がる空の下方には、家々の屋根が写り込んで、虚実のオーバラップする世界の構図を象徴している)、パラダイス(「楽園を撮ろうとするのだけれど、どうしても不幸が入り込んできちゃう」)のカラー作品と交錯して、絵巻物のように、時間の推移を重ねあわせていく。

100点を超えるポラロイド作品も同時展観される。いずれも、本年夏以降に撮影された最新作。

  • Umegaoka Lovers’ suicide (c) Nobuyoshi Araki / courtesy of artspace AMUmegaoka Lovers’ suicide (c) Nobuyoshi Araki / courtesy of artspace AM