荒木経惟  恋空

KOIZORA (The Sky of Love)

2020.10.10 - 12.12

2020.10.10 - 12.12

過去へ、未来へ、宇宙へ。自転とともに色彩をうつろわせ、雲は片時もとどまらず。亡くなられた妻・陽子さんの生前に撮影された、印象的な空の写真がある。広いバルコニーの物干しで洗濯物を干す後ろ姿の向こうにひろがる空。モノクロームのイメージは、楽園そのものだった。陽子さんが逝ってから、増えていった空の写真は、下界と切り離されて死の気配を強く漂わせ、見る者の心を締め付けた。

本展で展観される空の写真は、日常世界と地続きの構図が多い。早朝の無人の道でひとり瞬く信号、家々の照明が浮かび上がらせる一日の終わりの営み、切れ切れの飛行機雲。風になびく雲の位置が刻々と微動して連続するフィルムに、空を見つめ続ける写真家の思いが満ちている。此岸と彼岸が混濁するイメージは、清と濁、希望と沈鬱、優しさと冷淡、過去と未来、生と死を呑みこんで、はてしないレイヤーをつくりだす。生きて大地を踏みしめる根源的な喜びの重さを呼び起こしてくれる。